こんにちは、空間デザイナーのナカザワフミです。
今日は先日読んだ点滅社さんから発刊されている『鬱の本』の感想文です。
知人も寄稿している本ということもありますが、鬱々とした気分になる時もまあまあ日常の身近なところにあるので、タイトルからとても気になり、読んでみることにしました。
まず、手に取った時の大きさ、手触りがとても心地良い本でした。B6変形判というサイズとのことですが、出掛ける時にちょっと鞄に入れていこうかなとも思いやすい、読み進めるにも負担になりづらい小ぶりさからも、今回の題材を表現しているようにも感じました。
クリームがかった色味で少しぬくもりも感じる触り心地の用紙に、焼き上がったクッキーのような生き物の概念のようなイラスト、光の当たり方によってもやもやゆらゆらと見えるホログラムのタイトル、透けて表紙の全貌が感じられるトレーシングペーパーの帯と、物理の本だからこそ出来る心地良い体験をさせてもらえてるなと。
内容は84人の書き手さんによる『鬱『と『本』をテーマとして巡るエッセイ集です。
鬱のときに読んだ本。憂鬱になると思い出す本。まるで鬱のような本。
84人の「鬱」と「本」をめぐるエッセイ集。本が読めないときに。（夏葉社さまの『冬の本』にインスパイアされ製作した作品です）
この本は、「毎日を憂鬱に生きている人に寄り添いたい」という気持ちからつくりました。どこからめくってもよくて、一編が1000文字程度、さらにテーマが「鬱」ならば、読んでいる数分の間だけでも、ほんのちょっと心が落ち着く本になるのではないかと思いました。
点滅社webより
病気のうつに限らず、日常にある憂鬱、思春期の頃の鬱屈など、様々な「鬱」のかたちを84名の方に取り上げてもらっています。
「鬱」と「本」をくっつけたのは、本の力を信じているからです。1冊の本として『鬱の本』を楽しんでいただくとともに、無数にある「鬱の本」を知るきっかけになれば、生きることが少し楽になるかもしれないという思いがあります。
この本が、あなたにとっての小さなお守りになれば、こんなにうれしいことはありません。あなたの生活がうまくいきますように。
※本書は、うつや、うつのような症状の方のためのマニュアル本や啓発本ではありません。そのため、例えば「うつ病の具体的な治療方法」などは書かれておりません。ご了承ください。
読んでいて感じたのは、本を心の拠り所にしている人はこんなにいるんだなぁということ。そして、そんな拠り所となるはずのことさえも拒絶してしまう時は誰にでもあるんだなぁということ。
周囲に対しても自分に対しても明るく元気に振る舞えない時もあって。何なら嫌悪感や怒りを撒き散らしてしまう時ももちろんあって。そのことに後ろめたい気持ちを持ってしまうこともあって。自分だけではどうにもこうにも出来なくて苦しんでいたとしても、『そういう時もあるよね』と、そっと声を掛けてもらえているような、はたまた言葉はかけずともその存在や空気は感じられるような、自分の持つ弱さを否定せずに静かに抱きかかえていく強さを、少し分けてもらえたような気がしました。
書き手さん達の紹介も実在する人物であることが伝わるように掲載されていたことも良かったように思います。例えばイニシャルだけの掲載などだと、やっぱりどこか空想上の生き物なんじゃないかって疑問もフッと沸いて、書かれている文章自体の真偽にも多少の疑問が沸くようにも感じます。そうしてしまうと、この本で伝えたいことが揺らいでしまってもったいない気がするのですが、今回の構成だと実在する人物であることがするりと伝わり、人の温度感とか、1人だけど独りじゃないんだなと思えてくるような心強さまで感じさせてもらえているような気がしました。
端から見てしっかり目標に向かって進んでいるように見える人でも、内心は随分と不器用に一生懸命に日常を踏みしめているんだなと知ることも出来ました。所作がスマートに見える人ほど心の中ではジタバタしてるのかなぁと想像すると愛おしくも思えてきて、失礼な言い方だけど『ふふっ』っと少しホッとしたりもしました。たぶん、読んだ時の気分次第で心に留まる言葉も変わってくるのかなとも思います。そういう自分自身の心の変化を、読みながら感じるのも良いのかなぁと。
私自身には心の拠り所としてきた本はまだ見つかっていないので、オススメ出来るような本との出逢いがあって羨ましいなぁ…とも思います。いつかそんな本との出逢いの瞬間があることを楽しみに待ちつつ、紹介されていた中でいくつか気になった本もあったので機会をつくって順番に読んでみたいなと思います。
楽しいことや明るい出来事ばかりの日々では無いけれど、今日もどこかで生きているあの人やこの人の息づかいを感じながら、自分の見えてる今が少しずつでも良くなるようにしていきたいと思える一冊でした。
鬱の本 出版社：点滅社