よきかな ひらがな

よきかな ひらがな

こんにちは、空間デザイナーのナカザワフミです。

今日は先日読んだ松村大輔さんの著書『まちの文字図鑑 よきかな ひらがな』の感想文です。
説明文は少なめな図鑑のような本だったので、正確には読んだよりも “眺めた” の方がしっくりきますが。


美しく整えられて使いやすい現代のフォントにも好きなものはたくさんあるけれど、街の中に潜む画一化されていない文字たちを見つけるのも好きなんですよね。日課の散歩をしている時の楽しみの1つでもあります。

『どうしてそことそこを繋げた?』などと思わずツッコミを入れたくなるような、よくよく見ると不安定な部分もあるのに全体を見るとまとまっている不思議な感覚の文字が多く、『この文字の作者は何を思いながらこうしたのだろう?』と、謎解きのように考えるのがとても楽しい。

どんな方が考えた文字なのか今となっては知る術も無いものばかりだし、いくら考えても作者の真意にたどり着くことは不可能に近いけれど、それぐらいがちょうど良いんです。

私が街の中の文字が気になり始めたきっかけは、たぶん手書きの映画看板だったような気がします。ちょっとうる覚えだけど。
(こちらのリンク先にあるようなもの)

まだ小さかった頃には、生まれ育った街・浅草にも映画館が残っており、少し古めのタイトルのものが格安で3本ぶっ通し、席の入れ替え無し、立ち見も上等で観賞できる映画館がありました。その入口に掲げられていた大きな看板が毎回手書きで作られていて、前を通る度に横目で眺めていた記憶があります。

私がよく見ていた看板は、どことなく似てるようなそうでもないようなな似顔絵のものが多く、『ちょっと頑張れば自分でも描けるんじゃない?』などと生意気なことを考えることもあったけれど、ついつい見てしまう看板を描けることってすごいことだったんだなぁ…と、近しい仕事をするようになった今ようやく思えるようになれました。大人になったね。

似顔絵だけでなく、映画のタイトルにキャッチコピー、出演者の名前など、様々な形状の文字が詰め込まれている手書き看板。隅々まで凝視したくなる魅力がそこにはありました。

そんな流れもあって既存のパソコンフォントではなかなか見られない、作者の意図や依頼者の好みが色濃く反映された看板の文字たちをついつい見つけては心の中で愛でることが今でも好きです。


話がだいぶ逸れましたが、今回読んだ『まちの文字図鑑 よきかな ひらがな』はあいうえお順に1文字ずつ見比べられるようにまとめられており、同じ『あ』でもこれだけ違いを出せるんだなぁーと眺めていてワクワクしてきます。1文字につき厳選された7個ずつの掲載なので、この続きを自分でも集めてもっと見比べられたら楽しいんだろうなぁ…。

“の”のページ。ここだけでも豊富なバリエーション。

デザインの仕事をそこそこ長く続けていると、『過去にこれで上手くいったから』や『これが流行ってるから』などの理由により、自分の中 “だけ” で作り上げたmyルールに縛られていつも似たような雰囲気の置きにいったような提案をしてしまって反省することも多々あります。

でも、この本に出てくる文字たちを見ていると、もっと自分の感じるままに、もっと自由に楽しみながらデザインしても良いんだよねと、勇気づけられてるようなそんな気がしました。

これからも行く先々の街並みに馴染んでいる文字たちを見つけては作者の意図を妄想しつつ、あーだこーだと想いを巡らせる時間を楽しみたいなと思えた1冊でした。


まちの文字図鑑 よきかな ひらがな 著者:松村大輔

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