自分の行動を振り返りたくなる1冊

自分の行動を振り返りたくなる1冊

こんにちは、空間デザイナーのナカザワフミです。

先日、藤子・F・不二雄先生の異色短編集・1『ミノタウロスの皿』を読んだので、その感想文です。
(※ネタバレも含みますのでご注意を。)

今から26年前の1995年に発売されたSF的手法を駆使した風刺漫画集です。
先日、ドラえもんチャンネル内で行われていたSTAY HOME特別企画の漫画無料配信で、この『ミノタウロスの皿』を始めて読み、私の知っている藤子・F・不二雄ワールドとは少し毛色の違う感覚がとても気になったので、本を購入し読んでみることにしました。(※この記事の公開日現在では別の漫画が無料配信されています。)

“世にも奇妙な物語”のような雰囲気も感じるこの異色短編集・1の中には、13個のお話が掲載されていました。その中で特に気になった2つについて感じたことを書き留めてみます。

わが子・スーパーマン

スーパーマンのような特別な力をもった小学生のタダシくんと、そのパパとママを中心に描かれた物語です。
巷で大人気の特撮ヒーロー番組『ウルトラファイター』が大好きなタダシくん。『ぼくもウルトラファイターだもん』と無邪気に言いながら、パパとヒーローごっこを始めると…なんと、大の大人のパパを投げつけ、壁を壊してしまうのです。

その頃、タダシくん家族が住む街では通り魔事件が相次いでいました。
ちょうどタダシくんが外に遊びに行っているタイミングと、通り魔事件発生のタイミングが同じであることに気付いてしまったパパ。『まさか…』と願いながらもタダシくんの行動を疑い、真相を突き止めたいと思うように。

ある日の夜、その通り魔についてパパはタダシくんに直接聞いてみることにしました。寝惚け眼のタダシくんを起こし、通り魔事件のあった日にタダシくんも出掛けていたこと、なんの罪も無い人を傷つける通り魔は悪いヤツであると思っていることを、パパはタダシくんに向かって話し始めます。
するとタダシくんは『やられたのは悪者たちだよ』と反論。そう思う理由をパパが聞くと『生まれたばかりの子猫を捨てた』『駅のホームで列の横から割り込んでいた』と、タダシくんは答え、しまいには悪いやつは『殺してやるんだ』と言い、幼い少年の幼い正義感は歯止めが利かなくなっていきます…。

そんな『子供の純真無垢な心』を角度を変えて見つめた恐怖が描かれた物語。タダシくんの表情が絶妙で、絵を見ながら読んでいるとちょっとゾワっとします。
正義のヒーローの行動は100%正しいことなのか?正義ってなんなんだろう?と考えさせるようなお話でした。

ミノタウロスの皿

主人公は宇宙船の乗務員である地球人青年。彼が惑星間航行中にロケットの故障が起き、イノックス星に不時着したところから物語は始まります。
イノックス星には文明があるものの、地球でいうところの人類にあたる存在が『ズン類』と呼ばれる牛の見た目をした生き物、家畜にあたるのが『ウス』と呼ばれる人類そっくりな見た目の生き物という、地球とは正反対の常識、価値観が日常である世界。地球での価値観が当たり前と思っている地球人青年には『牛が人間を食べる』というその光景が、残虐で不条理なことと感じざるをえませんでした。

地球上で家畜とされている牛や豚、鳥などと人間は、言語によるコミュニケーションを取ることが出来ませんが、ここイノックス星における家畜・ウスは知性を持ち、自分たちを食べる存在と意思疎通が出来ること。いずれ自分たちは食べられる存在であるとも自覚していること。また、自分たちとコミュニケーションの取れるウスを何の罪悪感もなく食べてしまえるズン類に関しても読んでいて違和感を感じます。昨日の夕飯に食べたハンバーグの材料である牛と会話が出来る状況だったら、果たして自分はそのハンバーグを食べることが出来たのかなと…。

イノックス星で青年が出会った美しいウスの女性・ミノアが、これから行われる大祭の祝宴で振る舞われる大皿に乗せられる『ミノタウロスの皿』に選ばれていることを知り、青年は慌ててミノアの元へ。一緒に地球へ逃げることを提案しますが、当のミノアは『それはウスにとって最高の栄誉であること』『競争が激しく、生まれた時からその日のために努力をしてきたこと』を誇らしげに語り、青年の言葉には聞く耳を持ちません。

そこで青年はズン類の有力者の元へ出向き、この残虐な風習をやめさせようと奔走しますが、こちらもミノア同様『食物連鎖の一環に過ぎないこと』『ズン類とウスは深い友情で結ばれていること』など、問題のある行為では無いと説きます。

言葉は通じるのに話が通じないという……これは奇妙な恐ろしさだった。ドロ沼を歩きまわるようなもどかしさとでもいうか……”

上記は作中にある青年のセリフですが、この後のコマで青年は、

“ 彼等には相手の立場で物を考える能力が全く欠けている。”

そんな風にも述べています。
地球人青年自身も個人の正義を振りかざしてズン類やウスの価値観を変えようとしていることに少しも気付いていない、驕った考え方だなと感じるセリフでした。

そんなこんなで大祭の当日を迎え、ミノアは大きな喝采の中で祝宴の席へと運ばれていきます。それを阻止しようと青年はレーザーガンを持ってパレードの列を追いかけながらミノアに話しかけますが、『美味しそうでしょ?うんと食べなきゃいやよ』と青年に笑顔を送ります。最後の最後までパレードを追いかけたのも虚しく、レーザーガンを手放し、笑顔のミノアを見送ることしか出来なかった青年。
物語の最後には、迎えのロケットの中で待望のステーキを頬張りながら涙を流す青年の姿が描かれるという皮肉を込めた1コマで〆られています。

『自分がいま信じている価値観というものは一体何なんだろう?』と、答えのない疑問の沼にハマりそうになるお話でした。


この2つ以外の作品も考えさせられるような内容のものばかりです。
自分の行動を振り返りながら読むのも良いのかも?(ちょっと怖くはなるけれど笑)

藤子・F・不二雄先生の異色短編集は他にも数巻発売されているので、またちびちび読んでみたいなと思います。

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