こんにちは、空間デザイナーのナカザワフミです。
先日、小山愛子先生の『舞妓さんちのまかないさん』を読んだので、今回はその感想文です。
ここは京都のど真ん中にある花街。
舞妓さんたちが深夜、お仕事を終えたあと帰ってきて、共同生活を送っているのは、「屋形」と呼ばれるおうちです。
とある屋形で「まかないさん」として舞妓さんたちに毎日の食事を作っているのは、なんと弱冠16歳の少女・キヨ。
彼女がまかないさんになったのには、ある意外な理由があって――。華やかな花街の舞台裏、普通の日のごはんを通して、温かな人間模様が描かれます。
小学館 より
2017年に発表され、2025年に漫画は完結した作品です。
私は同作の実写版をNetflixで観てから知った作品で、ドラマでは描かれていない部分も知りたいと思い、漫画を大人買いした次第です。大人になるって良いものですね。
実写版と漫画の両方を見て、少し設定など異なる部分もあったり、実写の方が少し大人な雰囲気を感じたりもしましたが、流れる優しい空気はどちらも終始変わらずで、両方の作品に触れてみて良かったなぁと感じました。
今回は漫画版を最後まで読んでみての印象に残ったことをいくつか書き留めておこうかなと思います。
自分の真ん中に戻ること
毎日をどんなに同じように過ごそうとしても、些細な出来事をきっかけとしての気持ちの上がり下がりがあるのは誰にでも共通してあることで。そんな心が落ち着かない時に『自分の真ん中に戻ること』の大事さを、登場する様々な立場の人物たちの言葉や行動を通して、この作品の中では繰り返し描かれていました。
舞妓さんのいる花街(かがい)には、その伝統をこれから先も長く守り続けるための制約やルールも多くあるようですが、そこでプロとして芸事に励む舞妓さんや芸妓さんも、舞妓さんたちが生活する屋形のお母さんやまかないさんも、華やかな花街の毎日を支える裏方の職人さんたちも、舞妓さんたちをご贔屓にしてお座敷に呼んでくださるお客様それぞれにも、『自分の真ん中に戻る』ことの出来る場所や人の存在があることを、毎日の何気ない暮らしの様子から伝えてくれていました。
疲れていたり、逆にちょっと元気がありすぎたりと、気持ちがグラグラ揺らいでいたとしても『自分の真ん中に戻る方法』を知っておいて、それだけは忘れないようにいられたら、これほど心強いことは無いんだなと。描かれていた登場人物たちそれぞれからの様々な視点を通して展開されるストーリーを読んでいて、『心と体をリセット出来る、帰れる場所』の大事さを、じんわりと感じました。
誰かのために作ったもの
本作品の中では食事シーンが数多く登場します。出てくる料理の数々は特別なごちそうでは無く、唐揚げや親子丼、うどん、プリンなどのどこにでもある家庭料理です。そんな普通のまかないだけど、どれもこれもが美味しそうで、何だか輝いて見えるのは、主人公のキヨが『誰かのために作った料理』だから。一緒に暮らす舞妓さんたちの体調や、その日の出来事に寄り添って考えられたメニューは、誰かを想ってひと手間をかける分の、たくさんの豊かさが込められていました。
『誰かのために』動く人のエネルギーのベクトルは『他者への貢献や愛情』に向いていて、そのことが巡り巡って、自分も周囲も満たす力にもなっています。特にキヨの作る料理には、『もっと頑張れ』というようなプレッシャーはありません。ただ『今日も1日お疲れさま、明日も元気でいてね』という祈りのような優しさが詰まっていて、そのことが受け取る側にとっても負担なく、自然とその人が前へ進むための力にもなっていて、そんな元気な姿を見守ることで、キヨ自身の力にもつながっている…そんな優しさの循環が、読んでいる側の心も温かくしてくれるようにも思いました。
100%の味方でいてくれる存在
舞妓さんの世界も含めてプロとして道を極めていこうとする時にはどうしても、他者から評価の目線で見られ、自分に順位をつけられることからは切っても切り離せないことだと思います。そんな世の中に身を置いていく中でどこかに1つだけでも、『評価されない場所』や『変わらない距離感』でいてくれる存在があるという絶対的な安心感は、外の世界で100%の力を出し切るためにも必要なことなんだなと読んでいて感じました。
1人きりで強くなれる人の方が世の中には少ない気もしているけれど、何となく1人で全てをこなすことを良しとするようなプレッシャーも日々感じる中で、そんな時に自分の味方でいてくれる人の存在が1人でもあると、そんな孤独な戦いにも耐えられること、少しずつでも前を向いて進んでいけることに気付かされることもあります。
自分自身にもそういう存在がいるよなぁ…という気持ちと、私も大切な誰かにとっての安全地帯で在り続けられたら良いなぁと、誰かの人生をほんの少しでも輝かせられるように頑張りたいと思えました。
漫画も実写版も、どちらも見ていてお腹が減る減る。
ほっこりとした気持ちになれるだけでなく、そーっと背中を支えてもくれているような、そんな良き作品でした。
