DAZZLEの公演『NORA』を観て

DAZZLEの公演『NORA』を観て

こんにちは、空間デザイナーのナカザワフミです。

先日、友人に誘われ、観劇に行って来ました。
気になる公演は今までいろいろあったものの、実際に生で舞台を観るのは小学生の時の課外授業ぶりじゃないのか?…というぐらいの初心者ですが、とても興味深い体験の出来たひとときだったので、その時感じたことを忘れる前に書き記しておこうと思います。

今回観て来たのは、ダンスカンパニー『DAZZLE』主宰の公演『NORA』
公式発表されているストーリーは下記の通りです。

かつて、世界が人を作った。
やがて、人は世界を作れるようになった。
命や、運命までも。
だが、理想を求めるほど、理想から遠ざかる。
人は世界を作ることができても、
平等と平和を作り出すことは出来なかった。
自由を求めて人々が逃げ込んだのは、
配信停止となった”いわく付きの”オンラインゲーム。
そこには、秩序に縛られない人間の本性があった。
あなたの本性を、あなたは知っていますか?

https://nora-dazzle.tokyo/3

それでは、観劇を終えた後の心に残ったポイントごとにまとめてお伝えしていこうと思います。

1.観客も巻き込んだマルチストーリー形式

『ゲーム』というフレーズがあるだけで、ほんの少し心ときめくのは私だけでは無いはず。ゲームの世界を舞台としていることもあり、観客である私たちもその世界観へと参加できる仕掛けが用意されていました。

それは会場の入口で渡されるプレートを用いて、物語の要所で私たち自らがいくつかの選択をし、選んだ答えによって未来が変化しながら進んでいくという仕掛け。そのためマルチストーリー形式となり、各公演ごとに観られる物語、結末までもが変わっていきます。

ほら、もうこの仕掛けからゲームですよね。
会場の観客全員が選んだ数の多い方が採用されるため、全てのストーリーを自分だけで決められるわけでは無いけれど、予め最初から最後まで決められた物語を見守るだけでは無いということはとても珍しい体験。集計に要する待ち時間も感じること無く選択された物語が進んでいくので、本当にゲームの世界に入ったような感覚です。

しかもゲームとは違い仮想のキャラクターを操作するのでは無く、現実にいる生身の人間が選ばれたストーリーを演じていくんですよ。役を演じているとはいえ、目の前で動いている人間が進む人生を、自分の手で、頭で、決めてしまうことの罪悪感と、そうまでしても先が観たくなるエゴのようなものとが入り乱れる感覚でした。

2.シンプルな舞台装飾、映える人間の動き

今回の公演場所は東池袋にあるあうるすぽっと
席数301席のコンパクトな劇場です。

舞台初心者の私的に『舞台』と聞いてパッと思い浮かべるのは『宝塚歌劇団』や『シルク・ドゥ・ソレイユ』『劇団四季』などで、『広く大きな空間のステージ』に『場面ごとに次々と変わっていく大きな背景のセット』といった、日常とは離れた、とにかく広くて豪華な場面を思い浮かべがちでした。

なので今回のDAZZLEの選んだこの空間や舞台装飾はとてもシンプルだなと、会場に入った瞬間は感じたのが正直な気持ち。

けれども、公演が始まった瞬間から身体中が飲み込まれるような音響と、演者であるダンスカンパニー『DAZZLE』と男子新体操チーム『BLUE TOKYO』の方々の動きの縦横無尽さが、そのシンプルな空間であることにより、とても際立っていたように感じました。ポロッと舞台から飛び出しちゃうんじゃないかという勢いと、ギリギリのところで秩序を守っているそのバランス感が凄いなーって。

今回とても運が良く1番前のほぼ中央の席を取ってもらえたこともあり、その動きによる地面からの振動や、高さのあるアクロバティックなダンスをより高く感じることもでき、『この方たちがもっと広いステージで演じたらどういうことになるんだろうか…?』と、生意気だけれど今回の会場は彼らにとっては狭すぎやしないか…と思ってしまうほど、圧巻のダンスと演技のパフォーマンスを観ることが出来ました。

動き全体はダイナミックだけど、頭のテッペンから手の指先から足のつま先に表情まで、身体中全てに神経を行き渡らせて、緻密に繊細に動いていくとか同じ人間なの?どうなってるんだ?と。

また、シンプルな舞台装飾であることにも意味があるように感じました。場面ごとに様々な表情を魅せることが出来るのもシンプルであるがゆえなんだなと、物語が進むにつれて実感。ゲームといえば『ドット絵』の世界線で生きてきた身としては、真っ黒い正方形の小道具を動かして、みるみる場面が変わっていく様子はとてもワクワク、楽しかったです。

3.たまに魅せるコミカルな動き

基本的に全編に渡って考えさせられるエピソードばかりで、終始どんより暗い気持ちにもなるストーリー構成です。
そこが闇をビンビンに感じるゲームらしさでもあり私は引き込まれたのですが、そんな世界観の中だからこそ端々に散りばめられたコミカルなダンスをより一層楽しめました気もしました。

少しネタバレになってしまいますが、主人公がとあるミッションを達成するために訪れるトイレのシーン。お腹が痛くて苦しんでいる仕草だったり、ジャーッと水を流す瞬間だったり、普段自分でもしている動きがいちいちスタイリッシュでかっこいい。真剣に演じられている方々を目の前にしながら、思わず心の中でニヤニヤしてしまうような愉快なシーンでした。

そういった日常的に目にしている動きさえ、表現者のフィルターを通し演じることでここまで見え方が変わるんだなと。全くもって同じ動きは出来ないけれど、同じ仕草をトイレ内でしてみたら何か彼らのことがより一層わかるんじゃないかと少し試してみたことはナイショの話(もちろん再現は出来ませんでしたよ)。

4.生で観ることでしか味わえない五感をフルに使った体験

今回の公演は本来、約一年前に上演される予定の演目でした。延期せざるを得ない情勢の中で、ただただ黙って時が経つのを待つのでは無く、『NORA』の物語に続く伏線的なお話がDAZZLEのYouTubeチャンネルに度々アップされていっておりました。

第一弾【Labyrinth 東京C】
第二弾【Bet your ALL】
第三弾【Investigator TOKYO】

こちらはオンライン上ではあるけれど、今回の公演と同じく視聴者参加型の仕掛けをグッドボタンを使って行う、マルチストーリー形式。リアルタイムでの投票数に応じて次に公開される物語が決まっていきます。(ということは、永遠に公開されることの無い、選ばれなかったストーリー動画もあったということ…)

そんな風に再演に向けて用意してくれた仕掛けも楽しみつつ、ようやく劇場で開演。YouTubeでの体験を経ていたのでマルチストーリー形式のルールは把握してましたが、やはり画面越しに体験するのと劇場で体験するのでは、なんと言うか…肌で感じる空気が違うなと感じました。

舞台上の演者さんたちにも、観客席の私たちにも、それぞれに流れる独特の緊張感。
今回誘ってくれた友人は根っからの観劇オタクですが、手軽に画面越しでも観劇出来る方法がたくさんある中で、わざわざ時間をつくり、足を運んでまで、劇場で観劇する気持ちがほんの少しですがわかったような気がしました。

場面ごとのメインであろう演者さん以外の仕草や表情、暗転している暗がりの中での動き方など、とにかく、情報量が、異常。瞬きする一瞬も惜しいぐらい、見守っていたい要素がそこら中にあり、あっちをキョロキョロこっちをキョロキョロ、目も耳も脳も大忙しでした。

同じ公演に何度も足を運ぶ理由もちょっとわかったような気がしたよ、友人よ。
演者さんたちの演技は一発勝負。マルチストーリーでは無くとも観る度に新しい発見があるんだろうな。


…ということで、知らなかった新たな体験が出来たひとときでした。
また気になる公演があったら劇場へ行ってみようと思います。

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